大分大学工学部 機械・エネルギーシステム工学科 熱工学研究室
助教 加藤義隆

このページは学生がエントロピに慣れることを目的に作りました.そのため個人的なエントロピの解釈について記述していますが,内容の正しさについて度外視しています.



 エントロピを分類して説明する教科書はあまりないが,「エネルギ」も位置エネルギや内部エネルギのように様々あるように,エントロピも色々ある.ともかくエントロピは式(1)で定義される.
(1)
 エントロピは移動する熱量を温度で除したもので,気体定数や比熱などと同様にエネルギを温度で除した次元を持つが,温度差ではなく温度でエネルギを除している.エネルギを温度で除すことが理解し難いが,温度がエネルギの分布を表す尺度であることを認識すると理解の助けになる.
 クラウジウス(クロージウス)の積分(Clausius Integral)がゼロにならないのが実在するサイクルだが,PV線図では摩擦や冷却による熱損失を表現できないのでPV線図で真面目に考えてはいけない.学部の熱力学で扱うサイクルはΔS=0の可逆サイクルだし.可逆サイクルと言っても,サイクルの中に不可逆過程を含む.  乱暴に言うとエントロピには3つの性質があり,現象の進行方向を定める,熱の授受を示す,物体の持つ仕事として利用できないエネルギの大きさを示すなどの役割がある.  図1の模式図に示す簡単な例を用いて述べる.熱湯と水をまぜると温度は下がりぬるい湯にすることは可能である.現象の前後のエネルギは等しいが,ぬるい湯を熱湯と水に分けることが不可能なのは明らかである.




図1 エントロピの変化による不可逆の評価

 熱力学第一法則だけで考えれば図1の左右は等価だが,熱力学第2法則で考えると定量的にエントロピによって現象の進む方向が示される.

 エントロピの変化は熱の授受があることを示す.例えば同じ気体の体積変化でも,等温変化の場合はエネルギの授受が伝熱で行われ容易にはもとに戻らないが,エネルギの授受が仕事による断熱変化は手を離せば容易に元に戻るしエントロピが変化しない.ちなみに自由断熱膨張は熱の授受が無く等エントロピ変化のようだが,真空状態の喪失という状態変化があるためエントロピが増大する.

 データベースとしての工学的な利用方法としては,物質・温度・圧力ごとのエントロピの値が蓄積されているので,データベースが解析の手段として用いることが多い.TS線図,HS線図,ギブスの自由エネルギ,ヘルムホルツの自由エネルギなどで用いる.このエントロピは当にエネルギを温度で除したものが何であるかを考慮したもので,分子運動のランダムさを示すものになる.そのため同じ温度の水の比エントロピは飽和液より乾き飽和蒸気の方が大きな値になる.このエントロピと温度の積は束縛エネルギと呼ばれ仕事として使えないエネルギである.

 演習等でエントロピの変化量を計算するものが存在するが,エントロピの変化量やエントロピの値そのものが工学的に意味を持つ事例は個人的に経験がない.個人的にはブルーバックス文庫の下記の本は理解しやすいかと思うが,物理化学の教科書でギブスの自由エネルギを扱った時が身に染みるようにエントロピに慣れた気がした.
     
  • 平山令明,熱力学で理解する化学反応のしくみ 変化に潜む根本原理を知ろう,株式会社講談社,2008年,251p


リンク
大分大学の
ホームページ
加藤のページ
のインデックス