レポートの書き方 (追加) Encode: Shift-JIS

 以下の説明は2005年度の学生実験を担当した際に,以前に作成した「レポートの書き方」では不十分だったと思われる点について追加したものである.減点することが多い項目や,減点された学生が納得できないで抗議に来たような項目について説明している.

図表や式
 図表や式を用いて説明するときは,本文中の記述は具体的に式番号や図表の番号で指示する.図表や式が本文から切り離されて別のページに記載されていても内容が理解できるように本文を記述する.挿絵ではないので,特に考察では図表の何を読み取ってもらいたいのか明確に文で説明する.
 図や表の挿入位置は,図や表について本文で適切な記述がなされているから,無理に本文の記述箇所の近くにする必要はない.ページのレイアウトに無理があれば,図表の挿入箇所が適度な範囲で前後しても良い.
 式の場合はレイアウトにも注意する必要がある.本文と紛らわしくなるので,行の頭から式を記述しない.また式番号をたよりに式を探すことがあるので,式番号は行の右端近くの常に同じ位置に見やすく配置する.

レイアウト
 読みにくいものや見苦しいものは読む気になりません.さらにページの余白が充分に確保されていないものや,みだりに空白があるものは良くない.
 見苦しいレイアウト,むやみに小さな図や表,縦横比のおかしな図,見た目の悪い文章は相手を不快にさせるので避けるべきである.
 ページの余白を充分に確保する理由をここで主に三つ説明する.ひとつは「綴じ代(とじしろ)」が確保されていなければならないことである.仕事の文書であればファイルに閉じて保管することも想定されるので,ファイルに閉じて読めるだけの余白がページの左側に必要である.ひとつの理由は,読んでいる者が補足やメモを記入することが想定されるからである.その他にもページ目一杯に記入した場合,少々の汚損・破損で文書に被害がおよぶ等が考えられる.
 逆に無駄に空白が大きいものも実務を想定すると好ましくない.仮に配布物として多く印刷する場合,空白が多い文書は印刷枚数が無駄に多くなる.また保管を考えた場合でも,無駄に場所をとる.例えば数十ページの文書ならば章毎にページを変えた方が良いが,たかが数ページの報告書なら見出し毎にページを更新する必要はない.

想定する読み手
 レポートは独立した内容を持たせ単独で第三者に理解可能な記述をする.学生実験の範囲で想定する第三者とは,実験に関与していない機械系技術者だと考えれば良い.最低限の材料力学・機械力学・流体力学・熱力学は習得していると見なして良い.学部生の受ける授業レベルのことをダラダラと説明する必要はないが,それを越える内容については説明が無ければ内容が理解不能になる.説明は詳細なほど良い訳ではなく,適度な分量がある.

理論・実験の説明と測定値の扱い方
 レポートは演習問題ではないので正解は無い.得られた結果の妥当性を示すには,結果を得るまでの過程が正しいことを示す必要がある.考察においても納得できる筋の通った論理展開を行い,参考文献を利用して裏付を与える.自分の実験結果を参考文献の値と比較して,実験結果の妥当性を検証するのも有効である.比較対照は重要な判断材料なので,適切に選ぶ必要があり,参考文献として明らかにする.なお,参考文献と合わないことは,自分の実験結果を無条件に否定する理由にはならない.

考察のポイント
 機械工学実験Iおよび福祉機器実験IIの「固体の温度伝導率の測定」に関して言えば,測定結果が想定される値にならないので,そのことについて考察する.議論は,客観的,定量的,論理的に進められることが望ましい.
 代表的議論の例は,実験結果と想定した値の差の大きさの評価である.「差が大きい」と判断するならば,その結論を導く根拠を示さなければならない.温度伝導率の差が影響する程度を工学的に述べる必要がある.例えば「実験結果として得た温度伝導率が樹脂の値ではなく金属の類に近い」などと言えるならば,明らかに異なる物質の物性値を呈しており,「大きく違う」と結論付けることができる.このとき値の持つ工学的な意味を理解しなければ,値の大小を論ずることができない.
 ただし求めた温度伝導率が議論に用いて良い値か確認する必要がある.計算ミス等は許されないので問題外であるが,測定や計算仮定での近似などの誤差がどの程度影響するか評価する必要がある.
 仮に誤差範囲が小さく,実験結果と想定した値の差が工学的に誤差の影響を無視し得ると判断したとする.その後の議論としては温度伝導率の値の差の工学的な影響を評価し,差が生じる理由を述べる.このとき論理的な説明が要求される.

 また説明の過程を「当たり前のこと」と思って省略してはならない.良い例ではないが「風が吹けば桶屋が儲かる」では風が吹いてから桶屋が儲かると述べるまでの過程を説明したことで「おかしい」と判断が可能になる.工学的に否定する手段としては,風が吹いて桶屋が儲かるまでの過程の論理を統計的なデータに基づいて客観的に議論することで可能になる.仮に「風が吹けば桶屋が儲かる.」としか述べなかった場合は,主張を通したものが「勝つ」ことになり,議論ではない.
 どこまで詳細に説明しなければならないか判断が難しいが,意識してもらいたい.

3.「まとめ」の内容
 考察のポイントと結論を述べる.ここで新たなことを記述しない.

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