膝深屈曲動作とは?

 身体動作の測定とは,ありていに言えば

関節の角度を測る

ということです.
 これはもちろん心臓や内臓の動きではなくて,運動器(骨と筋肉)の動きです. 筋肉は骨を動かすためのアクチュエータで,骨は(おおよそ)剛体ですから,身体の動作は骨同士の相対姿勢,すなわち関節角度なのです.
 

関節は骨の継手

で,種類によって様々な動き方をします.例えば手首は縦横に動きますが軸周りの回旋はできませんし, ひじ関節は1方向の曲げと軸周りの回旋.肩関節は縦横の曲げと軸周りの回旋という

3自由度

の継手です.
 もちろんこれは大まかな言い方です.肩関節は複数の関節の複合であり,わずかに並進の運動もします.

 このように様々な種類の関節がありますから,単純に測定するといってもその表現の仕方は大変です.
 医者は「解剖学的」な角度の表し方をしますので,現場で通りがいいのはこの表現なのですが, これはおそらく筋肉の機能に由来したもので,関節の姿勢を数学的に正確に表したものというわけではありません. このへんも相当含蓄のある問題ではありますが, とりあえず

「数学的に正確な姿勢を把握し,それを解剖学的角度に換算する」

方法を用いるということで・・・.

 どうやって関節の角度を測るか.まず思いつくのは

分度器

ですね. 現場でも,

ゴニオメータ

という分度器とノギスの合いの子のようなものが使われているそうです. これなら,「静的な条件で,1軸の角度」を測定できます
 Then the next. 動作中の関節角度を測りたければどうするか.・・・

ビデオ

で撮影しておいて後から分度器で測ればよさそうですね.
 1軸だけでなく2軸,3軸の角度を測りたければ・・・横から前から上から,ビデオカメラを

複数

使えばよさそうです.

 この方法を突き詰めると,光学式の動作測定になります.(

すっごく大まか

な言い方ですが・・・)
 この方式の代表選手である

VICON

社のモーションキャプチャは,世界中の大病院や研究所や大学が導入しています. (うちにはありません) かなり高価で,専用の測定室が必要だったり,オペレーティングに知識や慣れが必要ですが, 様々な工夫がされてかなり正確な測定ができるものです.

 最近(といってももう何年前ですが)流行したMicrosoft社のゲーム用入力装置である「

KINECT

」は, カメラプラス深度センサ(カメラと撮影対象の距離を測定する)で,1台の装置で測定しようという発想です.

 この光学式測定の問題点は,

可測範囲が限られる

ことです.そりゃそうですね.カメラに映る範囲でないと使えないわけです.

 我々は,

慣性センサ

を使って関節角度を測定することを目指しています.すなわち,

加速度を2回積分したら距離

になること,

角速度を1回積分したら姿勢(角度)

になることを利用して,センサを貼ったセグメント(体節)の運動を見ようという発想です.
 最近は3軸のセンサも小さいですし,測定や記録に使うマイコンやワンボードPCも小型軽量なので, これを装着して持ち運べば,たとえば私の好きな登山中の動作を測定することもできるわけです.
 他にも,工場や病院の作業者に腰痛が多いような場合,

業務中の動作をずっと測定してどのように負担が蓄積しているか見る

とか, 自動車(長時間)運転中の体の動きを見ようとか,単純な事務作業にしても長時間やっていたらどういうふうに姿勢が変わってくるかとか, スキーやマラソンとかの(移動を伴う)スポーツ動作はどのくらい測定できるかなとか, 応用範囲が広そうで,実現したら色々できるなあと楽しみにしている段階です.



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