膝深屈曲動作とは?

 

膝深屈曲動作

とは,膝を深く曲げる動作のこと.日本人工関節学会では, 「屈曲角度

130度以上

で,筋力だけでは得られない(外力を必要とする)姿勢」と定義されています.
 我々日本人にとっては馴染みの深い動作であるはずです.

正座や胡坐

など,床に座るためにはほとんどの場合膝深屈曲を必要とします.

この「筋力だけでは得られない,外力を必要とする」というのも中々含蓄のある但し書きです. 実際やってみれば分かりますが,筋力だけでは膝は最後まで曲がりません. 正座やしゃがみこみ動作は,上体の重力でむりやり押し曲げているのですね. これは筋力の大きさの問題ではなく,膝を屈曲させる筋肉であるハムストリングスの付き方に依存する制限です.

 現用の人工関節は,この深屈曲動作を安定して行うことができません. 論文などを調べてみると,人工膝関節の可動範囲は年々拡大しているものの,現状で平均屈曲角度

120〜130度

くらいであるようです. 聞いた話(なのでエビデンスはありません)によれば,人工膝関節置換した患者さんのうち,正座ができるのは10人に1人くらいだそうです.
(正座には,人によりますが

150度

くらいの屈曲が必要です)

 深屈曲対応型人工膝関節の開発に対する期待は,日本はもちろんのこと,アラブ地域でも強いと聞きます. 特にイスラム教徒は,

お祈り

の動作に膝深屈曲が必要になります. これも聞いた話で恐縮ですが,彼らは深屈曲ができない膝でもむりやりお祈り動作をするそうです.

 もちろん,これらの生活様式や宗教的要請のみならず,膝深屈曲動作はヒトにとって自然な動作です. 椅子とベッドで生活して正座などしない欧米圏においても,

ガーデニングをしたり,靴下を履いたり,入浴する

際には膝深屈曲になるはずです. 現在の人工膝関節適用患者は,このような動作ができない不便な状況にあるのです.

とはいえ,実は私は人工関節の患者さんから「不便で困っている」という話を聞いたことはありません. 変形性膝関節症や関節リウマチから開放されて「普通に歩ける」だけでも凄いことなのです・・・

 深屈曲が可能な人工膝関節の開発は,日本だけでなく,アジア・アラブ,そして世界的にインパクトのある要請なのです.



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