身体動作中の関節荷重の算出

 人工膝関節を設計しようと思えば,当然

膝関節にかかる力

が必要です. これを知らずに人工関節を設計するのは,

積載量を決めずにエレベータを設計する

ようなものですね.
 膝関節にかかる力は昔から計算されています.その際には,副産物(?)として筋力も算出されます. 人工関節の最大の目的は「痛みを取って,歩けるようになること」ですから,特に歩行動作を対象にした報告は多いです.
 関節荷重の算出は,力のつりあいを使って行われます.
 手順をすごく簡単に言えば,「外力と筋力による関節周りのモーメントがつり合うように筋力を定める. しかる後に,体の部分にかかる力がつり合うように関節力を定める」というものです.

 例えば下の図を見てください.


















 雑な図ですみません.そのうち綺麗に作り直します.(いつまでにとは言わないのがセコいところ.)
   右に描いてあるのが

床反力

(足が床から受ける力)による膝関節まわりのモーメントです. このモーメントは,膝を曲げる方向に働くのが分かるかと思います. 外力は床反力だけではなく,重力や慣性も働きますが,最も影響が大きいのが床反力なのでこれだけ示しました.

 この状態で筋力が働かなければ,膝は曲がってしまいます.ですから,この姿勢を維持するためには, 膝を伸ばす筋力をかける必要があります.それが左に示した

大腿四頭筋

の力です.
 大腿四頭筋は太ももの前面にある筋肉です.膝の皿といわれる膝蓋骨を通して膝蓋腱につながり,脛の骨に結ばれています.
 たとえば床反力がF,床反力のモーメントアーム長がL1,大腿四頭筋のモーメントアーム長さがL2であれば, 大腿四頭筋の力は 

F×L1÷L2

 ということになりますね.
 あとは,膝関節から下の部分(足〜すね)にかかる力(ここでは床反力,大腿四頭筋,膝関節接触力の3つ)の釣り合いを条件に, 膝関節接触力,いわゆる膝関節荷重を算出することができるわけです.
 ごくごく簡単ですが,計算の基本的な理屈はこれだけです.

 考えてみると,大腿四頭筋のモーメントアーム長というのはそれほど大きくありません.せいぜい数センチといったところです. それに対して,床反力のモーメントアーム長は,直立していれば短いですが,膝を曲げると大きくなっていきます.
 歩行時にかかる床反力の最大値は,体重の大きさとあまり変わりませんが, その際にかかる膝関節荷重が体重の3倍にもなるというのは,

床反力とつりあわせるための大腿四頭筋力が大きくなっている

からなんですね.

 さて,立っているときにはあまり大腿四頭筋の力を使わないというのは分かると思います.
 膝を曲げていくと大腿四頭筋に力が入っていくことも,経験的に分かりますね.
 そのまま膝を曲げていくと,しゃがみこむ姿勢になります.
 しゃがんでいる時は,床反力のモーメントアーム長が長くなっているはずですね.
 一方で,完全にしゃがむ

直前

は筋肉が強く働きますが,完全にしゃがむとそれほどの力はいらないというのも経験的に分かると思います.

 どういうことでしょうか.

しゃがみこむと,床反力で膝にかかるモーメントは大きいはずなのに,筋力はそれほどかかっていない

ように思える・・・.

 これもそれほど難しい話ではないのですが,

大腿下腿接触力

,太ももとふくらはぎの間の接触力を考えるとこのことは

ある程度

解決します.
 大腿と下腿の接触力は,下腿に対しては膝を伸展させる向きに働くので,これが床反力由来の屈曲モーメントを相殺してくれるのです.

 大腿下腿力もそれはそれで曲者なのですが,それは次の次の項目で説明するとして,次の項目では, 力がかかった膝関節が実際どのように動いて,どこで接触しるか考える方法について説明します.



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