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振動って言っても何のことって思う人も多いことと思います。皆さんの身の回りの振動って何があるでしょうか。ほとんどの人は地震を連想するのですが,確かにそれも一つの振動ですね。でも実はそのほかにもたくさん振動があります。たとえば,車ででこぼこ道を走ると振動を感じますし,船でゆっくり大きく揺さぶられて気分が悪くなった経験を持つ人も多いかと思います。船などのようにゆったりと揺さぶられるものは,体には感じますが,耳では聞こえません。一方,テレビのスピーカーから聞こえる音は同じ振動ですが,耳では聞こえるものの体ではあまり感じません。人間の耳に聞こえるかどうかは,1秒間あたり何回揺さぶっているのかという数値(周波数あるいは振動数と言い,単位はHz:ヘルツです)で決まります。一般に,人間は1秒間に20回から2万回程度揺さぶられる振動を耳で聞き分けることができます。これを,可聴範囲(かちょうはんい)といいます。

 ということは,耳に聞こえているものは振動と考えることができますので,世の中にはたくさんの振動があることに気がつくと思います。耳に聞こえるものから,船の揺れのように聞こえないものまで,振動はいろんな種類があるんです。

先ほど例を挙げました船の揺れは好ましいものでしょうか。気持ちいいと思う人はあまりいませんし,それが,船の走行に役に立っているようにも思えません。ほかの乗り物でも,このような有害な振動はたくさんあります。では,振動は悪いものばかりでしょうか。決してそうではありません。皆さんが昔から慣れ親しんだ楽器がそれにあたります。楽器で演奏されるメロディーは,私たちを大変心地よい気分にさせてくれます。楽器は,ギターのように,指で弾くものや,バイオリンのように道具を使ってこするもの,フルートのように口で吹くものなど様々です。あまり見たことはないと思いますが,ピアノは,けん盤の動きに連動して,楽器の中にある弦をハンマーというものでたたいて演奏しています。

研究を説明するのにもっとも好都合なものが,楽器です。実は楽器の振動発生原理は,振動学的に見るとほぼすべての種類を含んでいると言っても良いと思います。楽器による音の出し方で分類すると以下のような3種類に分類できます。

(1) 引っ張って離したり,弾いたりするもの
 ギターなどは弦を引っ張ってポヨヨ~ンって離すものですし,ドラム,シンバル,トライアングル,木琴,鉄琴,ピアノなどは,コツンと物をたたいて振動させる種類のものです。
(2) 電気などを使って揺らしているもの
 エレクトーン,オルガン,電子ピアノ,シンセサイザーなどは,けん盤を押したり,ボリュームを調節したりして,音の高さや音量を調節し,最終的には,スピーカーと呼ばれる振動体を電気的な力で揺さぶって音を出すものです。エネルギー源は特に電気でなくても結構です。
(3) ただ空気を吹き付けたり,こすったりするもの
 リコーダーやフルートなどは,楽器にただ空気を吹き付けるだけで音が発生する楽器です。(ただと書いていますが,フルートは音を出すのがとても難しいのはもちろん承知しています)。同じような楽器に,知らない方もおられるかと思いますが,クラリネット,オーボエ(左の写真),ファゴットなどがあります。これらは共通してリードと呼ばれる薄い板状の部品がついている楽器です。オーボエのリードを吹かせてもらった私の経験から,決してただ吹くだけで音が出るなんてことは言えないのですが。。。(とても大変です!!)。バイオリンやチェロなどは,吹くのではなくこすって音を出していますのね。実は,この分類の振動が私の研究に大きく関連しています。

概略の分類はこのくらいですね。

上に書いた(1)~(3)は,それぞれどのような原因で発生しているのかという点で違う現象に分類されているのです。
(1)は,最初に引っ張っておいたり,最初だけコツンとたたいたりして,あとは勝手に(自由に)振動してしまうものですね。これを「自由振動」と言います。
(2)は,(1)のように最初の条件だけではなく,何らかの力で無理やり(強制的に)揺さぶり続けるものです。これを「強制振動」と言います。
(3)は,ちょっと不思議な振動です。バイオリンを例に考えてみましょう。バイオリンは弓でバイオリンの弦をこすり,弦が振動することにより音が発生します。自由振動の場合は,通常しばらくたつと音が小さくなっていきます。でも,この場合はこすっている限りは音が出続けます。では,自由振動ではないですね。強制振動の場合を考えてみましょう。強制振動の場合は,強制的に揺さぶっているのと同じように(同じ振動数で)揺れます。たとえば,音楽の基準となる「ラ」の音は,440Hzです。もし,バイオリンを強制振動によりこの振動数で揺さぶるとすれば,人間の手で1秒間に440回押したり引いたりしながら弓でこする必要があります。こんな超人的な技ができるはずありませんね。実は,この現象は,与えているのはある一定の力なのですが,その一定の力が,なんといつの間にか振動的な力に変化させられる振動なのです。このような振動を「自励振動」といいます。人間の声(人間としてはただ空気を送っているだけなのに,勝手に音になってしまっています),体育館でのシューズのキュキュッという音(たれも前後に揺さぶっていませんよね。あの音の高さからして,人間の足で1秒間に数千回前後させないとあの音は出てきません)などがあります。

右の写真は大分県日田市の山奥で作られている小鹿田(おんた)焼の湯飲みです。振動と言いますと,真ん中のsinカーブに目が行きますが,ここで重要なのは,点模様の方です。これは,飛び鉋(とびがんな)と呼ばれる手法で,曲がった金属のプレートをあてるだけで発生する自励振動を利用したものです。

前の説明を見ても,自励振動はどうして発生するのかよくわからない振動ですね。この研究室では,どのようにして自励振動が発生しているのか,その原因を突き止める研究も行っています。楽器では,人間に快感を与えてくれるのに,実は自励振動は機械でいろいろといたずらをするやっかいものになっていることが多いのが実情です。自由振動や強制振動は,その原因がはっきりしていますので,比較的対策はしやすいのですが,自励振動に関しては,発生原因もはっきりしていませんし,対策も打ちようがありません。このような厄介者の自励振動をなくしてしまうような対策を考えるのがこの研究室のもう一つの目的です。

以下,ちょっと機械的なお話になりますので,専門的になるのをお許しください。

車とは限りませんが,新幹線をはじめとする鉄道車両,航空機,車,身近な例では自転車でも,走行を止めるための装置としてブレーキを持っています。ブレーキの種類としては,数多くありますが,主に使用されているものが,ディスクブレーキとドラムブレーキです。ディスクブレーキは円板状のディスクの両面にパッドと呼ばれる摩擦材を押しつけて,ブレーキをかけます。ドラムブレーキは,筒状の内面をパッドで押しつける構造です。最近では,ディスクブレーキが主流となってきましたが,ドラムブレーキも乗用車の後輪や,バス,トラックなどでは使用されています。このようなブレーキでは,自転車ではなじみの深いキーっという鳴き音が発生して問題となっています。鳴きはもちろん不快感を伴いますし,なくしたい騒音の一つなのですが,鳴きが発生して部品がダメージを受けることもあり,その対策が要求されています。この研究室では,ブレーキ鳴きの発生メカニズムとその制振対策を検討するための研究を行っています。

最近では,余り見られなくなりましたが,舗装していない道路の水たまりを見たことがあると思います。不思議なのですが,この水たまり,連続していくつかできていることが多いのです。ひとつひとつの水たまりはほぼ同じ間隔にできていますね。実は,この水たまりは,車が何回も何回も走行することにより,徐々に路面が削られて,このような形になっています。このような現象をパターン形成現象と呼んでいます。そのほかにも舗装道路がでこぼこになったり,タイヤの方がでこぼこになったりします。このようなパターン形成現象は,機械系で大きな問題になっていることが多く,その原因解明と防止対策の研究を行っています。

ただ,部品をくっつけるだけで振動や音が止まってしまう。こんな装置があったらいろんなことに利用できそうですね。動吸振器とは,有害な振動をなくしたり,低減させたりするための装置です。実は,ただつけるだけでは振動は止まりません。動吸振器の大きさや振動数などを上手に調整してあげる必要があります。

自動車には,エンジンの回転数に応じて動吸振器の振動数を自動調節してくれる遠心振子式動吸振器というものが取り付けられていることがあります。よりコンパクトで効率的な遠心振子式動吸振器の研究も行っています。